「教えて!山崎先生〜ドラマ『朱蒙』翻訳の舞台裏〜」第1回 開設のご挨拶

meta-creation_date: 2006-10-04T12:00:00+09:00

西ヶ原字幕社の林原です。当社のホームページにご訪問ありがとうございます。

さて、このたび新コーナー「教えて!山崎先生〜ドラマ『朱蒙』翻訳の舞台裏〜」を開設いたしました。
現在スカイパーフェクトTV傘下の韓国語チャンネル、KNTVで好評放送中のドラマ「朱蒙」、その字幕翻訳を西ヶ原字幕社が担当しています。
このドラマは、高句麗の建国の祖を描いた史劇で、翻訳も史実に照らして正確なものである必要があります。
そこで東京学芸大学で古代史を専攻されている山崎雅稔さんに歴史監修をお願いし、翻訳の草稿をチェックしていただいています。
山崎さんは日本史から韓国・中国の古代史に関心を広げられた方で、漢との関係がしきりに取り沙汰されるこのドラマの監修としては、まさにうってつけ。
翻訳者の些細な疑問に対して、史料を引用しつつ、また時に当時の時代感覚を説明しつつ、的確かつ丁寧にお答えいただいており、その博識ぶりに、私たちの知的好奇心は日々くすぐられるばかりです。
「こんな興味深いやり取りを、内部にとどめておくのはもったいない」――そう考えた私が、歴史監修の過程をコーナーにまとめてホームページで公開することを提案したところ、山崎さんは「韓国の歴史を知ってもらうきっかけになれば」と快諾してくださいました。
基本的に、メールでのやり取りを整理して転載する形ですので、あまり解説じみたものではありませんが、ドラマ『朱蒙』翻訳の舞台裏を垣間見る機会として、興味を持っていただければ幸いです。


初回は、翻訳者から目から見たこのドラマの予備知識と特徴をお話して、導入に代えます。
まずドラマの舞台は今から2千年前、日本で言えば聖徳太子が活躍した飛鳥時代、中国では漢という巨大帝国が栄えていました。
漢は古朝鮮(日本では「衛氏朝鮮」と呼びますが、韓国式に倣います)を滅ぼし、玄菟郡ら漢四郡を設置、その領土を支配しました。
玄菟郡は現在の吉林省の東部から北朝鮮の慈江道・両江道・咸鏡道にかかる地域に当たります。
この玄菟郡と隣接していた夫余国が、後に高句麗を建国する朱蒙の出身地であり、ドラマの前半の舞台になります。
とはいえ時代が時代ですので、現存する史料は『三国史記』『後漢書』『広開土王碑文』などのごく限られた記述のみ。
大枠は史実に依拠しつつも、ドラマには少なからぬ脚色が加えられているわけですが、史実の中のドラマ、あるいはドラマの中の史実を見つける楽しみも、この手の作品の魅力だろうと思います。

ちなみに言語的な特徴ですが、古代が舞台とはいえ視聴者は現代に生きています。
よって口調は、現代人が理解可能で、かつ時代劇であることを認識できるものになります。
翻訳者の感覚としては、朝鮮時代を舞台にした時代劇と大差はありません。
特別難しい点があるとすれば、職位や機関名など一般名詞と固有名詞の中間に当たるような名詞です。
その難しさには2種類があって、

  1. 当時の感覚でつけられた名詞を日本人の視聴者に理解可能なものにすること(例:冶匠・大匠)
  2. 現代の韓国人の感覚でつけられた名詞を当時の感覚からも逸脱しないような訳語にすること(例:鉄器房)

その両方で頭を抱えます。

前説が長くなりました。
いよいよ本題に入りますが、最後に翻訳チームのメンバーを紹介します。
翻訳は私、林原圭吾と福留友子が担当、ネイティブチェッカーとして任秀彬が就き、最後に山崎さんの監修を仰ぐ形です。
ちなみに本コーナーは月一回更新。
今月は1〜8話、来月は山崎さんの自己紹介と9〜16話分をお届けします。